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つじこの

一応、本とかの批評のつもり。趣味的な備忘録

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鬼頭莫宏トークショー&サイン会(2013年1月26日) 

『のりりん』第6巻と『なにかもちがってますか』第3巻(ともに講談社)の刊行を記念して、漫画家・鬼頭莫宏さんのトークショー(相方は森恒二さん)とサイン会が、26日に秋葉原の書泉ブックタワー9階イベントホールにて開催された。
以下は当日の走り書きをもとにした報告ですが、細部に関しては記憶があやふやなところもありますのでご注意ください。

あらかじめどちらかの単行本を書泉で購入した人に参加券が配られており、それによると催し自体の時間は12:00から17:00までとのことで、開始10分前に集合してくださいという旨の注意書きがあったように思う。
ところが私が秋葉原に着いたのは12:00少しすぎ。
あわてて会場に向かったのは当然だが、実際の開始は12:15頃だったので、十分間に合った。
来場者はおよそ100人ばかり、座っている人と立ち見の人が半々くらいで、昨年のサイン会(「鬼頭莫宏サイン会(2012年1月22日)」)と比べると心もち女性の割合が多いように感じた。これは場所柄か、それともこの一年で女性ファンが増えたのか(事実、それらしき会話も小耳にはさんだ)…。

拍手に迎えられて鬼頭先生がご登場。
知ってのとおり書泉ブックタワー9階では女性アイドルの写真集やらDVDやらを商っていて、壁も天井も肌色尽くしの空間だ。それを意識してか、開口一番「並んでる場所がなかなかいい場所だったと思うので…」などと発言して満座の笑いを誘ってくれる。
『ホーリーランド』・『自殺島』・『デストロイアンドレボリューション』の森恒二さんを迎えて進行したトークショーの話題は、意外にも(?)『なにかもちがってますか』ではなく、担当編集の方が司会を務める『のりりん』に集中した。
およその流れを箇条書きで整理しておく(特にことわらないかぎり主語は鬼頭先生です。なお、一人称は「自分」でした)。
・『のりりん』第6巻の話を書くまで箱根に足を運んだことはなかった。まず自動車、ついで自転車で取材を行なった(取材時の写真の紹介が始まるが、パソコンの電池切れのせいでいったんおあずけ)。
・自分の所有する自動車はマスタング(『のりりん』の作中でノリが乗っているやつの次の型だそう)。
・しげの秀一作『バリバリ伝説』の影響で大学時代はオートバイに凝っていた。しかしトヨタに就職した。
・自動車は嫌いで、またよく知らなかったが、ラリーカーなどのメカニズムには興味があった。
・大学時代にツーリングブームに遭遇したのが、自転車に関心を持つきっかけとなったようだ。もっとも学友からスポーツタイプの自転車(5万円程度)を譲られ、通学用として使っていたにすぎず、当時は自転車そのものに強い思い入れがあったわけではない。しかし、部屋やお金など、然るべき条件が整えば本格的な機種が欲しいとは感じていた。
・「いま何台お持ちなんですか?」という司会からの質問に対しては「何台あるかはわからない」と、いかにも猛者な返答で応じる鬼頭さん。ただし必ずしも物欲に流されているわけではなく、漫画を描く上での資料としての意味があること、またフレームのみのものも多いので数え方しだいで所有台数が違ってくること、などの補足説明があった(注1)。
・(ここでパソコンの電源が復活したので)箱根取材の模様を語っていただく。『のりりん』第6巻では言及のみで描写がない、「国道1号最高地点874m」の標識の写真もおがむことができた。
・取材のオチ。背景を受け持つアシスタントの人たちは結局ストリートビューを参考にして描いたので、せっかく撮ってきた写真は多くが使われずじまい(切ない!)。また平日に取材した結果として、作中の風景も休日にしては人出が少ないものになった。
・ここで森恒二さんが司会に求められて発言。自分は取材はするがあまり活用しない(どういうことなの…)、同じ道でも自転車で行くと起伏を強く実感するという『のりりん』の描写は真に迫っている、という趣旨だったと思う。

さらに自転車がらみの話題が続く。
・アシスタント4人中2人を自転車乗りに「した」(目下もう一人も着々と感染中)。
・日常的に自転車に乗るようになると、距離感覚が変わってくる(40km先のコンビニは「近所」)。
・最高で160キロ(注2)。
・最近もよく走っている(編集者からの電話に対して、奥様が「いま走りに出ております」と答えることが多いそう…健脚ですなあ)。一日に走る距離は往復30キロ強で、近所の峠に半分登って下りてくることが多い。
・ここ5年ほどは子育てにかまけていてあまり走れなかったのだが、その状況が変わってきたので、ここ数か月は走行距離が伸びている。
・子連れでレースに出場するという目標を立てているが、我が子は元来運動嫌いだった親に似て、いまのところレースでも強いほうではない(同年輩の子に負けて帰ってくる)。
・強迫観念かもしれないが、一度上げた水準を落としたくないので、毎日の練習を怠るわけにはいかない。
・自転車に関する『のりりん』の登場人物たちの台詞はどれも自分の実感のつもり。「つらい、いやだ」と思っていたのが「登らずにいられない」という気持に変化してくるなど。森さんによれば「乗らない人の気持の描き方が正確」とのこと(注3)。

この辺からトークショーは佳境に入り、なおも『のりりん』をめぐりつつ、漫画家としての鬼頭莫宏さんのお仕事の楽屋裏を、ちょっとだけのぞかせてもらえるような話題も出てくる。
・総じてあてがわれたものが好きでない。「ネクタイって何? 会社がつける首輪なの?」などと感じていた。
・一回別のルートに逸れてから常道に戻るのが自分の流儀。
・道交法の主題はずっと考えていた。思考が表現になるまで、数年かかる(いま書いているのは、三年ほど前に考えていたこと)。
・『のりりん』は進み方が遅い。長篇漫画は10巻程度の分量が理想だが、はたして10巻で収まるのだろうかと、不安に感じている。年2冊出るとして、後半になるとまるで5年前の自分の尻拭いをしているようでいい感じがしないはずだ。これでいいのか(この進み方でいいのか)、目下思案中。
・ここで森さんは『のりりん』を評して、「自転車に乗って楽しむことに絞られている不思議な漫画」と発言(注4)。
・『のりりん』の目的は自転車趣味を普及させることであり、「漫画としての面白味が自転車の面白さを超えないように考慮している。そこに限界もある」(これを聞いて司会の編集の方が、「恋愛パートを進めましょう」と合いの手を入れる。あ、それはそれで読んでみたいかも!)
・自転車は興味を持ってもらうまでが難しい。趣味の雑誌はもともと好きな人しか手にとらない。それを思えば、漫画雑誌は入口として最適だと考えた。しかし、なかなか終わらない(終わりが見えてこない)という問題に直面している。
・ここで森さんが、「鬼頭先生の作品だから」いずれ殺人なりなんなり、衝撃的な事件が起きるのだろうと予想していたが、まさかこういうことになるとは思わなかった(こんな平和な作品になるとは思っていなかった)、という旨の発言をすると、鬼頭さんは不敵な笑みを浮かべて「僕の人徳のなせるわざ」と応じつつ、いずれリンちゃんは殺されてしまうのかという問いに対して、「そういうヒキもありかなあ」と物騒な軽口を叩いてみせる(注5)。
・森恒二さんは『ヴァンデミエールの翼』以来の鬼頭ファンだそうで、その理由を「全然異質の感じ」・「すごい緊張感」などという語で表現しようとするも、「すみません、説明できません」と言って投げ出してしまう(まあ、森さんも漫画家であって批評家ではないし、自分にとって大切なものについて大勢の前で正確なことを述べようとすると、誰しもこうなるのは無理からぬところ。仕方ないね)。 
・『ヴァンデミエールの翼』はデビュー作であるから、当時のことは記憶としては一番鮮明に覚えている。最初は秋田書店と交渉するも、作風が少年誌向きではないという理由から出版社を変えることにし、友人に『アフタヌーン』を勧められて講談社に原稿を持ち込む(近かったので郵送は選ばなかった。なお、当時『アフタヌーン』については「『ああっ女神さまっ』の雑誌ね」という程度にしか認識していなかった)。初回の掲載は埋め草としてだったが、幸いそこから連載が決まった。
・竜の造形(『なるたる』)と自転車ヘルメットが似ているという旨の森さんの指摘に対しては、ジアースの面(『ぼくらの』)と自転車ヘルメットが似ているとも言われるが、はっきり意識していたわけではなく、落書きをしている中でなんとなく決まってきた、という鬼頭さんの返答。「ああでもない、こうでもない」と落書きをしているときが一番しあわせなのだそう。

ここで本トークショーの目玉ともいえそうな発表がくる。なんと『のりりん』の成行しだいで始まる可能性があるという、新連載企画が二本も公にされたのだ(…というのは冗談で、すぐ後述するように実情は少し違います)。
・ひとつめは『いと小さきものにあらざれば(Nil Nisi Parvus)』。手のひらサイズの妖精を手に入れた女の子が、人間に害をなす他の妖精たちを従わせていくという内容の漫画で、ちょっと生意気そうな妖精の愛らしさは美少年好きの人にとっては垂涎ものでありました。『終わりと始まりのマイルス』の「炁(き)」の物理法則(思念の実体化とか)が共通しているのだそう。
・ふたつめは『創空の舞』。「女子中学生を戦闘機に乗せたい」という欲望(なんと不純な…いや、純粋なのかな?)から生まれた作品。パラレルワールドもので、日米安保に代わる「新安保」のもと、独自の軍備を整えている現代日本が舞台。主人公は兵器設計局の局長の娘で、毎日基地のある富士から厚木まで戦闘機で通っているとのこと。なお戦闘機は皇紀にちなんで「49式」と命名されている(皇紀2649年、つまり西暦1989年の制式採用ということでしょうな)。彼女が制服の上からシートベルトをつけている絵がスクリーンに映ると(さながら亀甲縛りですぞ!)、森さんや司会の方から「(漫画として完成された状態で)見たい、見たい」の大合唱が湧き上がる。少しは自重しなさいよ…(と言いつつ私も見たい)。
鬼頭さんが一番最初に好きだった乗り物は飛行機だとのことでした(まあ、『ヴァンデミエールの翼』や『なるたる』の読者にとっては、そう意外でもなさそうですが)。ただし、『ぼくらの』はあらかじめ直線を主体にすると決めていたので、飛行機の造形がいまいちうまくいかなかったとか。
・ここで種明かし。実は二作とも新連載する予定ではなく、20年前にチャンピオン編集部(秋田書店)にかけあって日の目を見なかった企画だそうです。ただしリメイク(再活用)ということなら、まんざら可能性がなくもないようでした。

以下はまとめというか、締めくくりに相当するご発言です。
・いままでどおりの話の進め方だと『のりりん』だけで寿命が終わってしまう。
・自分は性格上の問題があるので、書きたいものと書かなくちゃいけないものを考えつつ書いている(両者の兼ね合いを、不断に気にせざるをえない)。
・人を楽しませるというよりは自分の目的のために漫画を描いている。それが他人のためになっていないという罪悪感はあるが、こうして多くの人に集まってもらえると励みになる(注6)。

トークショーは以上で終わり。ざっと一時間であり、事前に予想したよりはあっさりしたものだったが、それでも貴重な体験だった。森恒二さんの奥ゆかしい人柄はご立派だが、もう少し積極的に、『自殺島』や『デストロイアンドレボリューション』などを引き合いに出しつつ、『ぼくらの』や、とりわけ『なにかもちがってますか』について喋ってくれてもよかったような印象はあります。
このあと13:30頃よりサイン会が始まった。
私を含む立ち見組はいったん会場から出て列を作り、座っていた人たちから順番に、『のりりん』第6巻か『なにかもちがってますか』第3巻にサインをもらう。トークショーの話題も『のりりん』が主だったように、自転車の経験を話して鬼頭さんと会話が弾むのを楽しんでいる人が多い様子。
私の番がきたときは15:00前くらいで、残り人数は40人ほどだったような気がする。
昨年は『のりりん』にサインをしていただいたので、今回は『なにかもちがってますか』にお願いすることにした。
以下が証拠の写真です。
130128_0137~01

この表紙をめくると…(ドキドキ)
130128_0140~02

サインのお出まし。「と」「う」「も」が生き物っぽいのですよ。高岳似子さんもご一緒です。
130128_0141~01

為書き(「…さんへ」)をアルファベットの頭文字で入れていただいたので、桂太郎さんであれ工藤輝美さんであれTimothy Keithさんであれ、鬼頭莫宏作品を愛読する全国全世界のT.Kさんが恩恵に与れるという仕組みだ。でもいま気づいたけど、あんまり為書きの意味がないっぽいね!
昨年と違い、今回はラフスケッチの大盤振舞いも、こちらが希望するキャラクターを描いてくれるサーヴィスもなかった(一緒に描いてくれるキャラクターは完全に無作為に決まっていたのか、はたまた何かの基準があったのかは―サインを頼む側の性別や差し出した作品そのもの等が、基準の候補たりうると思う―知らない)。しかしそれでも、私にとって忘れられない家宝ができたのは間違いのない事実だ。
森恒二さんをお迎えした以上、『デストロイアンドレボリューション』が話題になるかと思ったがならなかったのが不思議だったので、サインしてもらっている間にその点を質問したところ、鬼頭さんからは、編集部の都合ではないかという推測とともに、「(自分と彼とでは)目の付け所がかなり違うからね」・「『自殺島』は読んだけど(『デストロイアンドレボリューション』は読んでいない)」というお返事もいただいた(正確な文言は少し違ったかもしれない)。超能力を手にした少年たちによるいびつな「世直し」を描いた漫画として、『なにかもちがってますか』と『デストロイアンドレボリューション』がひとくくりにされてしまうことに対する、(作者としては当然の)警戒感のようなものが、そこはかとなく伝わってくる気がした。別にそういうつもりで尋ねたわけではなく、森さんとしては『のりりん』だけでなく『なにかもちがってますか』についても何かしら意見がありそうなものなのになー、という程度の疑問だったのだが、これは私の訊き方がいささか無神経でしたな。反省反省。
来年もサイン会を開いてほしいとか、「『マイルス』のほうもぜひ話を進めてください」などとわがままなお願いを重ねると、苦笑いしながら「あれはゆっくりやりたい」と言われました。思い返すと我ながら厚かましくて恥ずかしいかぎり。
別れ際にも当方は緊張のあまり、「がんばってください」と言ってから「ありがとうございました」と口走るなど(順序がおかしい)、妙な醜態をさらしてしまった。
ともあれ、こうしてわずかでも作者とお話ができ、サイン入りの『なにかもちがってますか』第3巻がもらえたことはただただ素直に嬉しい。
鬼頭先生、お疲れさまでした。これからもすばらしい漫画を描き続けてください。

うっかりしていたが、最後に主催者である書泉への注文を一つ。
正午開始で10分前の集合というのは、土曜とはいえ参加者の交通や昼食の都合を考えると改善の余地があるのではないか。同じく5時間の催しであっても、例えば13:00-18:00であれば、もう少し余裕をもって来場することができる。ましてや、実際には上述のとおりトークショーは約一時間で終わったのだし、私が会場を離れたときの状況からして、おそらくサイン会のほうも16:00までには済んだのではないか。だとすれば、終了予定時刻を変えないまま開始時刻を遅らせて、13:00-17:00という時間帯を指定することも十分可能だったはずなのだ。主役である鬼頭先生や森先生のご希望で決まったというのなら是非もないが、そうでないなら、この時間の設定については一考を促したいところである。


(1)結局フレームのみのものを含めると、10台以上所持しているというご発言が聞こえた気もする。
(2)ここは私の記録があいまいなのだが、たしか、鬼頭さんがこれまでに一日で最高どの程度の距離を走ったか、という質問への答だったようです。
(3)まあ、『のりりん』連載開始時や第1巻の発売時にこの点はよく言われましたね。
(4)これには私も含め、同意する人は多いと思う。いきなり『弱虫ペダル』的な方向には行かない、ということが『のりりん』の独自性であるわけで、その作風自体を根本的に改めて、もっと快速調の血沸き肉躍る筋書に変えてしまうということは、少なくとも私にとっては考えにくいのですよ…。
(5)いやあ、一読者としては見たいような、見たくないような…どう考えても既刊分の内容とはうまくつながらんでしょうに!
(6)あたりさわりのない謝辞のようでもありますが、「自分のため」という原点を忘れないのは、実はあらゆる創作家の仕事に通じる勘所のような気がします。
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