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つじこの

一応、本とかの批評のつもり。趣味的な備忘録

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日日日『のばらセックス』4 

今日も今日とて日日日『のばらセックス』のお話。

この作品は一応遠い未来が舞台ということになっていて、現在では到底考えられないことが科学技術の発展によりいろいろ可能となっている。
で、その種のSF的な細工は、悪くすると「何でもあり」という状況につながりかねない両刃の剣だが、『のばらセックス』での使用法はつねに機能本位に徹した模範的なものなのだ。

遺伝子工学が生み出した人類もどきの「加工種」(「エルフ」というルビが振ってある)の設定を例にとる。
加工種の恋人であるソプラノ君に対して、おちば様が不承不承男性的な性行動をとる場面に注目しよう。
「じっとりと汗ばんだ鎖骨のあたりにいやらしい桃色の、呼吸器官」(38-39頁)とある。
これは、肉体的には健全な男性だが不能に近いこの時点でのソプラノ君の、性的な受動性をほのめかすのにうってつけの描写だ(ただしあくまでも「えら」にすぎないので、それ自体は性器とは無関係)。
対して二人の関係がもっと一般的な男女のそれに近くなり、ソプラノ君が旺盛な性欲を発揮するようになると、こんな記述が出てくる。「加工種(エルフ)の精液は多い。遺伝子を改造された彼らは弱い種族保存能力を補うため、そういう機能を後付けされた。加工種(エルフ)同士の性交は一晩中つづくという」(302頁)。そのわけはほかでもない、今度は彼の性的な能動性を、人格とは無縁な形で強調する必要があるからだ。
いずれのくだりも、人間のキャラクターではこうはいかない。

この加工種の設定と並んでもう一つ見落とせないのが、整形を含めた医療技術の発達だろう。
最終的には女性の誕生(量産?)につながる以上これが作中で最も重要な要素であることは疑いないが、
そこに至るまでの経緯にかんがみても、鼻や顔面の損傷がきちんと修復されることで陰惨な雰囲気が払拭されているのは素直に喜ばしい(余談だが、このソプラノが少年の鼻をかみちぎるという行為は、「蟲と眼球シリーズ」に出てきた眼球抉子さんの所業を彷彿させるものだ。どちらも明らかに去勢を連想させるが、それでいて去勢への防衛反応という印象が希薄なのはなぜなのか。このあたり、日日日の作家としての特質に踏み込む話題になりそうだが、むしろそうなりそうだからこそここでは深く問わずにおきたい)。
しかしこの荒唐無稽なほど高度な医療技術の恩恵はそれだけではない。まさしくこれあるがゆえに『のばらセックス』は、限りなく完全に近い性転換を可能ならしめる点でクロソウスキーの『歓待の掟』を凌駕し、また致死傷からの復活を可能ならしめる点でバタイユの『眼球譚』を凌駕するからだ。
妻を客人に提供せんとする歓待の理想に憑かれたクロソウスキーには、自分自身が女として男に抱かれるという状況は想像できまい(『バフォメット』は以前読んだけど、いま内容を忘れているから検討できない…)。また人身供儀や破壊的な蕩尽の瞬間に強く魅せられて、その瞬間にまばゆく炸裂する至高性の輝きを絶対視する唯物論者バタイユにとって、斬首からの科学的蘇生などという空想は絵空事のはずである。しかしながら、登場人物は作者の性別と無関係に創造できるということ、また作中での死は真の死でなくしたがって一回きりとは限らないということが、フィクションの教訓(の一部)でなくてはならないはずだ。
してみれば荒っぽい論になるが、少なくともこの二点にかけては、『のばらセックス』のほうが両人よりも虚構というものの普遍的真理に忠実な気がする。

ちなみに上で言及した致死傷というのは「謝肉祭のハーモニー」の章のいわゆる「ぶっかけ」の場面(うろたんとか、エレクトさわるみたいなの)の締めくくりにあるものだが、オタク向けのエロティシズムへの痛烈な皮肉になっているのが面白い。
「世界でたった一人の女性」のばら様の痴態を目の当たりにして興奮を抑えきれない男性たちの自慰を、「これが、架空の母親へ捧げる、彼らの信仰心」(290頁)などという修辞を用いることで、母親への恋慕の念として規定すると同時に宗教的な文脈の中に位置づけてから(むろん、精神分析的にはこの説明で完全に正しかろう)、チェーンソーで切り落とされた彼女の生首(中身はおちば様だ)をごろりと転がしてみせるのだから、これはもうオタクへの悪意以外の何ものでもない。まがうかたなきポルノグラフィでありながら、この種の辛辣な多義性があちこちに見出せることも、『のばらセックス』を読むことの楽しさの一つだ。
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category: 『のばらセックス』

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